なぜインドと全然違う?「日本のカレー」がドロドロになった意外な歴史

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日本の国民食といえば、カレーライス。

子どもから大人まで幅広く愛され、毎週のように食卓に登場する家庭も珍しくありません。

しかし、ふと疑問に思ったことはないでしょうか――なぜ日本のカレーは、インドのカレーと違ってあんなにドロドロしているのか?

実はその答えは、カレー発祥の地インドではなく、イギリスにあります

日本のカレーは、インドから直接伝わったのではなく、大英帝国を経由して明治時代の日本にやってきた「西洋料理」だったのです。

そしてその「とろみ」の背景には、海軍の食卓、脚気との戦い、そして戦後の食品メーカーの創意工夫という、日本独自の物語が隠されています。

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インド→イギリス→日本:カレーが辿った意外なルート

カレーの起源がインドにあることは間違いありません。

しかし、インドで食べられているカレーは、日本人がイメージするものとはかなり異なります。

インドのカレーは、何種類ものスパイスをその場で調合して作る「スパイス料理」の総称です。地域や家庭によって味も形も千差万別で、多くはサラサラとしたスープ状のものです。

このインドのスパイス料理が大きく変わったのは、18世紀にイギリス人がインドから混合スパイスを本国に持ち帰ったときのことでした。

当時インドを植民地支配していたイギリスでは、毎回スパイスを調合する手間を省くため、あらかじめ配合済みの「カレー粉(カレーパウダー)」が商品化されました。クロス&ブラックウェル社(C&B)による製品が有名です。

さらにイギリスの料理人たちは、自国のシチューやソースを作る技法を応用し、カレー粉に小麦粉を加えてとろみをつけるという調理法を確立します。

こうして、インドのサラサラしたスパイス料理は、イギリスで「とろみのある煮込み料理」へと姿を変えたのです。

そして明治初期、文明開化の波とともに、このイギリス式カレーが「西洋料理」の一つとして日本に伝来しました。

つまり、日本のカレーがドロドロしている最大の理由は、そもそもイギリスで小麦粉を使ったとろみのあるカレーとして完成していたものが、そのまま日本に入ってきたからなのです。

なぜ「とろみ」がついたのか? ── イギリス海軍と小麦粉の関係

では、なぜイギリスではカレーにわざわざ小麦粉を加えたのでしょうか?

そこには海の上での食事という実用的な理由がありました。

イギリス海軍では、航海中の食事としてシチューが好まれていましたが、材料に使う牛乳は長期の航海では傷んでしまいます。そこで、牛乳の代わりに日持ちのするカレー粉で味をつけ、シチューと同じ具材で作る料理が考案されました。

このとき、小麦粉でとろみをつけたのには実用的な意味がありました。

🚢 船の揺れ対策:スープ状のカレーだと船が揺れたときにこぼれてしまう。とろみをつけることで、揺れる船上でも食べやすくなった🍞 イギリスの料理伝統:イギリスではシチューやソースに小麦粉でとろみをつける技法(ルー)が定着しており、カレーにも自然にその手法が適用された

🍚 ご飯との相性:イギリスに伝わったカレーはベンガル地方由来で、もともと米と一緒に食べる文化だった。とろみがあるほうがご飯に絡みやすかった

イギリスの料理書では、カレー粉を小麦粉と混ぜてルーを作り、だし汁で伸ばすという調理法が一般的でした。これはインド料理にはない手法で、インドではとろみが必要な場合はアーモンドの粉やココナッツクリーム、玉ねぎのペーストなどが使われます。

日本海軍が広めた「ドロドロカレー」

イギリス式のとろみのあるカレーが日本に伝わったのは、明治の初め頃です。

明治5年(1872年)に刊行された日本最古のカレーレシピ本『西洋料理指南』と『西洋料理通』には、すでに小麦粉を使ったカレーの作り方が記載されていました。

そして日本でカレーが爆発的に広まるきっかけとなったのが、旧日本海軍への採用です。

当時、白米中心の食事をとっていた海軍では、ビタミンB1の欠乏による脚気(かっけ)が深刻な問題となっていました。イギリス海軍を模範としていた日本海軍は、栄養バランスに優れ、大量調理が容易なカレーを兵食として取り入れたのです。

1908年(明治41年)の『海軍割烹術参考書』には「カレイライス」のレシピが掲載されており、牛脂で小麦粉とカレー粉を炒めてルーを作るという、現代の日本カレーの原型ともいえる調理法が記されています。

⚠️ 「海軍がカレーのルーツ」は俗説?「日本のカレーは海軍から始まった」という説は広く知られていますが、海軍料理研究家の高森直史氏は「海軍が日本式カレーのルーツという証拠は見つかっていない」と指摘しています。実際には、カレーは民間でも並行して広がっており、海軍の普及は民間の普及に比例したものだったとされます。ただし、海軍を通じてカレーが全国に広まったルートが存在したことは確かで、退役した兵士たちが故郷にカレーを持ち帰ったことが普及を後押ししました。

いずれにせよ、イギリス海軍由来の「小麦粉でとろみをつけたカレー」が日本海軍に受け継がれ、兵士たちを通じて全国に広がっていったことが、日本のカレーがドロドロしている大きな要因の一つであることは間違いありません。

固形ルーの登場が決定打に

日本のカレーの「ドロドロ」を決定的なものにしたのは、戦後に登場した固形カレールーです。

戦前から即席カレーの試みはありましたが、本格的に家庭に普及したのは1950年代以降のことでした。

📅 1954年:エスビー食品が「ヱスビーカレー」を発売📅 1960年:ハウス食品が「印度カレー」、江崎グリコが「ワンタッチカレー」を発売

📅 1963年:ハウス食品が「バーモントカレー」を発売 ── リンゴとはちみつを加えたマイルドな味わいが幅広い世代に受け入れられ、大ヒット商品に

これらの固形ルーには、カレー粉、小麦粉、そして動物性油脂が配合されています。

お湯に溶かすだけで自然ととろみがつくように設計されているため、日本の家庭カレーはほぼ自動的に「ドロドロ」になる仕組みになっているのです。

固形ルーの登場により、カレーは「特別な洋食」から「誰でも簡単に作れる家庭料理」へと一変しました。この手軽さが、カレーを名実ともに「国民食」へと押し上げたのです。

インドカレーとの根本的な違い

ここまで見てきたように、日本のカレーがドロドロしている理由は、一つの要因ではなく、複数の歴史的経緯が重なった結果です。

🇮🇳 インドカレー

  • スパイスをその場で調合
  • 小麦粉は使わない(とろみはナッツ、ココナッツ、玉ねぎなどで)
  • サラサラしたスープ状が多い
  • 地域・家庭ごとに無数のバリエーション

🇬🇧 イギリス経由のカレー

  • あらかじめ配合されたカレー粉を使用
  • 小麦粉でとろみをつける(シチューの技法を応用)
  • 船上での食事に適した形に進化

🇯🇵 日本のカレー

  • イギリス式をさらに日本の米に合うようにアレンジ
  • 固形ルーにより小麦粉+油脂のとろみが標準化
  • 海軍→兵士→家庭→給食→国民食という普及経路

興味深いのは、1927年に新宿中村屋でインド独立運動家のラース・ビハーリー・ボースが「純印度式カリー」を提供した際、小麦粉を一切使わなかったことです。ボースにとって、小麦粉でとろみをつけたカレーはインドの料理ではなく、「イギリス植民地支配の産物」だったのかもしれません。


日本のカレーがドロドロしている理由は、「船の上でこぼれないように」という一言で語られることもありますが、実際にはもっと複雑で奥深い歴史があります。

インドで生まれたスパイス料理が、イギリスで小麦粉と出会い、日本で海軍と食品メーカーの手によって「国民食」へと進化した。その過程で、とろみは単なる実用的工夫から、日本のカレーそのもののアイデンティティへと変わっていったのです。

今晩カレーを食べるとき、そのドロッとした一口の中に150年の歴史が詰まっていることを、ちょっと思い出してみてください。